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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)8304号 判決

原告 野村証券株式会社

右代表者 奥村綱雄

右代理人弁護士 大橋光雄

〈外二名〉

被告 山田勇

右代理人弁護士 小川清俊

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

被告は、昭和二十八年十二月一日熱海簡易裁判所に対し別紙目録(一)ないし(三)記載の株券について公示催告の申立をし、同裁判所は同庁同年(ヘ)第二号事件としてこれを受理し、同年十二月二十五日右株券の公示催告の公告を同日付官報第八〇九四号に掲載したが、その後昭和二十九年四月十四日に至り同裁判所は右事件を東京簡易裁判所に移送したので、東京簡易裁判所は右事件を同庁昭和二九年(ヘ)第二四五号事件として審理し、同年七月八日右株券の無効を宣言する旨の本件除権判決を言渡したこと、右株券の発行者の本店がいずれも東京都中央区に存在することは当事者間に争いがない。

ところで民事訴訟法第七百七十四条第二項第一号の「法律ニ於テ公示催告手続ヲ許ス場合ニ非サルトキ」とは、現に行われた公示催告手続について、抽象的一般的にこれを認める法律上の規定が全然ない場合をいい、いやしくも抽象的一般的に公示催告を認める法律上の規定がある以上、具体的個別的な公示催告手続において、申立人が公示催告申立の理由として証書を横領されたことまたは詐取されたことを主張したに過ぎないのに、裁判所がこれを盗取されたものと認定したような場合はこれに含まれないものと解すべきである。しかるに法律は盗取された株券について公示催告手続を許しており、成立に争いのない甲第七及び第八号証並びに本件弁論の全趣旨を綜合すると、熱海簡易裁判所は前記株券を盗取されたものと認定して前記公示催告をし、次いで東京簡易裁判所はこの公示催告を前提として本件除権判決を言渡したものであることが認められるから、被告が前記公示催告申立の理由として株券を横領ないし詐取されたと主張したに過ぎないものとしても、このことは前記条項に当らないものというべきである。

次に証書についての公示催告手続については、証書にその履行地が表示されていない場合発行人が普通裁判籍を有する地の裁判所が管轄するものであることは、民事訴訟法第七百七十九条第一項の規定するところであるから、前記株券の公示催告の管轄裁判所が前記株券の発行者の本店所在地を管轄する東京簡易裁判所であることは明らかである。被告は、株券を、利益配当を受け得る期待権を表象する証券とみて、履行地の表示をまつまでもなく右期待権の履行地は株券所持人の住所地であるから、株券の公示催告手続については株券所持人の住所地を管轄する裁判所に管轄があると主張するが、株券を被告が主張するような権利を表象する証券と解してみても、このことから直ちに前記株券を履行地の表示ある証書とみることはできないから、被告の右主張は是認し難い。しからば本件除権判決の前提である公示催告についての官報における公告は、管轄権のない裁判所によつてされたものといわなければならないが、しかし民事訴訟法第七百七十四条第二項第二号の「公示催告ニ付テノ公告ヲ為サ」ない場合とは、公示催告についての公告を全然しないか、または公告の重要な内容に誤記、脱落がありもしくは除権判決に掲げられた法律上の不利益が公示催告におけるそれと異なる場合をいい本件のように公告はされたが公告をした裁判所に管轄がなかつた場合はこれに含まれないと解すべきである。また東京簡易裁判所の所在地は「下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律」別表第四表において「東京都千代田区」と定められており、民事訴訟法第七百八十二条第二項の取引所と認められるべき東京証券取引所が前記株券に関する公示催告の当時千代田区内に存在しないことは明らかであるから、右公示催告手続においては東京証券取引所における公告を要しないものというべきである。したがつて、前記官報における公告が管轄権のない熱海簡易裁判所によつてなされたこと及び東京証券取引所における公告がなされなかつたことが、民事訴訟法第七百七十四条第二項第二号に当るという原告の主張は失当である。

よつて原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤原英雄 裁判官 山本寛 裁判官輪湖公寛は転勤につき署名押印することができない。裁判長裁判官 藤原英雄)

〈以下省略〉

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